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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)1196号 判決

上告人

日本国有鉄道

右代表者

藤井松太郎

右訴訟代理人

鵜沢勝義

外一名

右指定代理人

堀部玉夫

外一〇名

被上告人

久保田菊己

右訴訟代理人

大野正男

外二名

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人鵜沢勝義、同鵜沢秀行、上告指定代理人石山陽、同田村宣雄、同山口貢、同森田昌男、同鈴木寛、同原田潔、同宮宗靖、同森本曙、同河村悟の上告理由第一点について。

論旨は、要するに、日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。)三一条に基づく懲戒処分は行政処分たる性格を有するものであつて、これに重大かつ明白な瑕疵がないかぎり、当然に無効となるものではないと解すべきであるのに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下、第一点に関する判示について同じ。)が、本件免職処分は商私法上の行為であり、違法であれば当然にその効力を有しないものであるとしたのは、同条の解釈適用を誤つたものである、というのである。

一上告人は、従前国家がその行政機関を通じて直接に経営してきた鉄道事業を中心とする事業をそのまま引き継いで経営し、その能率的な運営によりこれを発展させ、もつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人であり(国鉄法一条、二条参照)、その資本金は全額政府の出資にかかり(同法五条参照)、その事業の規模が全国的かつ広範囲にわたるものであることなどの顕著な事実を考え合わせると、上告人はそれ自体極めて高度の公共性を有するものであるといわなくてはならない。そして、右の点から、上告人は、事業の経営、役員の任免、予算、会計等に関して、国家機関から種々の法律上の規制を受けているのである(国鉄法一四条、一九条、二二条、四章、五〇条、五二条等参照)。しかし、上告人が右のように高度の公共性を有する公法上の法人であるということから、直ちに上告人に関するすべての法律関係が公法的規律に服する公法上の関係であるとなしえないことは明らかであるのみならず、上告人の経営する鉄道事業等が経済的活動を内容とし、その活動は公権力の行使たる性格を有せず、しかも、上告人が国家行政機関から完全に分離した独立法人であつて、前述の国家機関による種々の規制もなお監督的、後見的なものと認められることに鑑みると、一般的に上告人又はその機関が行政庁たる性格を有し、その行為が行政処分ないしそれに準ずる性格を有するものと解することはできず、却つて、その行為は、原則的には私法上の行為たる性格を有するものと考えるのが相当である。もとより、上告人は、高度の公共性を有する公法上の法人であるから、一般の私企業と全く同一の地位に立つものではなく、したがつて、実定法規によつて、特に、上告人に関する個々の特定の法律関係につき公法的規律に服するものとし、更に、上告人又はその機関を行政庁に準ずるものとして取り扱い、その行為を行政処分に準ずる性格を有するものとするものとすることが許される場合がないわけではなく、現に、右の趣旨を窺わしめる実定法規も存するのである(例えば、国鉄法六〇条ないし六三条参照。なお、最高裁昭和二五年(オ)第三〇九号同二九年九月一五日大法廷判決・民集八巻九号一六〇六頁参照)。しかしながら、右の趣旨を示すものと認められる実定法規が存しないかぎり、上告人に関する法律関係がすべて公法上の規律に服するものであるとか、上告人又はその機関の行為が行政処分に準ずる性格を有するものであるということはできないのである。しかも、ある法律関係が公法的規律に服するものであるとしても、そこから派生する行為には私法上の行為たる性格を有するものもありうるのであつて、当然にそのすべてが行政処分たる性格を有するものと断ずることはできないのである。

以上に述べたところは、国鉄法三一条に基づき上告人の総裁がその職員に対してする懲戒処分の性格を判断するに当たつても、そのまま妥当するのであつて、懲戒処分は、実定法規がこれを前述のように行政処分たる性格を有するものとして規定していると認められないかぎり、行政処分たる性格を有するものとはいえないのである。

二ところで、所論は、実定法規上、上告人とその職員との関係すなわち右職員の勤務関係は、国家公務員等のそれと同様全面的に公法的規律に服する公法上の関係であるとされており、このことからすれば、右職員に対する懲戒処分が行政処分たる性格を有することは明らかである旨主張する。

しかし、仮に右職員の勤務関係が全面的に公法的規律に服するものといいうるとしても、このことから当然に右懲戒処分が行政処分たる性格を有するものといえないことは、前述したところにより明らかであるから、右所論は、既にこの点において失当であるのみならず、所論の掲げる各実定法規をもつてしても、次に述べるとおり、右勤務関係が全面的に公法的規律に服するものとは断定できないのである。

国鉄法二条等によれば、上告人が高度の公共性を有する公法上の法人であることは明らかであるが、このことから当然に上告人の職員の勤務関係が公法的規律に服するものとすることはできない。また、憲法一五条二項は、広く公務に従事する者を公務員と称してその基本的性格を宣明してはいるが、右公務員の勤務関係の法律上の性質までをも定めているものとは解されず、したがつて、上告人の職員が同項の公務員に当たるとしても、同項を根拠としてその勤務関係の性質を論ずることはできない。また、国鉄法二七条ないし三二条の規定は、上告人が高度の公共性を有することに鑑み、特に法律をもつて、その職員の任免、給与、服務の基準の大綱を定めるとともに、右職員につき一定の事由がないかぎり、分限、休職、懲戒という不利益処分を課しえないこととしたものであつて、そのかぎりにおいては、右職員の勤務関係の自律的決定が制約されてはいるが、これもまた、当然に右関係を公法的規律に服するものと解すべき論拠となるものではない。なお、国鉄法三四条一項が、上告人の職員は法令により公務に従事する者とみなす旨規定しているのは、上告人が高度の公共性を有することに鑑み、刑罰法規について、その職員を公務員と同視することにより、その職務の遂行における廉潔と安全などを特別に保護しようとするにとどまるものであり、このようにみなす規定を置いたこと自体、右職員が一般の公務員とは異なることを前提としているものともいえるのである。更に、公共企業体等労働関係法一七条は、上告人の職員が争議行為をすることを禁止しているが、これも、上告人の事業の公共性とその規模を配慮した労働政策上の規定であつて、右職員の勤務関係を公法的規律に服するものとする根拠とはなりえない。そして、他に、上告人とその職員との関係を全面的に公法的規律に服さしめることを窺わせるに足りるような実定法規は、見いだすことができないのである。

三そこで、国鉄法三一条に基づく懲戒処分につき、実定法規が特にこれを行政処分たる性格を有するものとしているかにつき検討するに、同条一項によると、懲戒権者は上告人の代表者である総裁とされているが、これは、懲戒権の行使が上告人の事業遂行それ自体ではない部内規律保持のための処置であり、その性質上迅速かつ統一的な処理を要することなどから、懲戒権者を特に上告人の総裁と法定したまでであつて、この規定から、懲戒権の行使につき、上告人の総裁を行政庁とし、懲戒処分を行政処分としている趣旨を読みとることはできない。そして、懲戒処分につき、これを行政処分ないしそれに準ずる性格を有するものであるとの趣旨を明らかにしていると認められる実定法規は、見いだしえないのである。なお、所論の掲げる公務員等の懲戒免除に関する法律二条及びこれに基づく日本国との平和条約の効力発生に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令一条は、特に、国家的恩典として、上告人の職員の懲戒を免除することとしたものであつて、これをもつて、懲戒権の行使が行政処分の性格を有するものと解さなければならないものではない。

これを要するに、右懲戒処分は、公法的規律に服する行政処分たる性格を有するものとは認められず、結局、私法上の行為たる性格を有するものと考えるほかはないのである。

されば、国鉄法三一条に基づく本件免職処分は、それが違法であれば、その瑕疵が重大かつ明白であるかどうかにかかわらず、当然にその効力を有しないものというべきであり、これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

論旨は、要するに、原判決が本件免職処分を無効であるとしたのは、国鉄法三一条の解釈を誤つたか、審理不尽、理由不備の違法がある、というのである。

一原判決は、概ね次の事実を適法に確定している。

1  昭和三四年九月二二日から三日間、山口市湯田の旅館で文部省及び山口県教育委員会の共催で中国、四国教育課程研究協議会が開催されたが、これに先立ち、その開催に反対する日本教職員組合及び中国、四国地区の労働組合の代表によつて共同斗争委員会が結成され、右協議会の開催に反対し、その参加者への不参加を呼びかけるなどの反対運動を行なう方針を決め、国鉄労働組合の中央執行委員会は、右反対運動の支援を指令し、同組合広島地方本部が更に傘下にその旨の指示をした。

2  上告人の職員として勤務し、国鉄労働組合の組合員であつた被上告人は、右反対運動に参加して現地に赴いた。ところで、右協議会の最終日である昭和三四年九月二四日の午前八時四〇分頃、協議会の参加者が貸切バスで開催場所の旅館を出発した直後、その付近路上で警備中の警察官多数と国鉄労働組合の組合員を中心とする反対運動者多数とが接触し、混乱を生じた。その頃、反対運動者の後方で、犯罪予防のための警備、犯罪捜査のための情報収集、採証等の職務を執行中の山口県警察の警部補谷喜市は、反対運動者の一名が警察官に暴行を加えているのを現認したので、部下の警察官にその場面の写真撮影を命じたところ、その場にいた被上告人は、これに気付いて同警部補を指さし、「こいつを巻き込め」と叫んだ。危険を察知した同警部補が、直ちに、難を避けようと車道を横断しかけたところ、被上告人は、反対運動者二、三名とともにその後を追いかけ、逃げ場を失い引き返してきた同警部補の腰部付近に背後から抱きついて一旦捕えたが、同警部補はこれを振り切つて逃れた。

3  被上告人は、右所為(以下本件所為という。)につき、間もなく公務執行妨害罪で起訴され、その後、同罪で懲役六月執行猶予二年の判決をうけ、同判決は昭和四二年二月一四日確定した。

4  そこで、上告人の総裁は、右判決確定直後の昭和四二年二月二八日、被上告人に対し、本件所為は、国鉄法三一条一項一号及び同号にいわゆる業務上の規程である日本国有鉄道就業規則(以下「国鉄就業規則」という。)六六条一七号の「著しく不都合な行いのあつたとき」に該当するとして、本件免職処分をした。

5  なお、被上告人は、昭和三二年七月一六日、他の国鉄労働組合員とともに、勤務時間内職場集会に参加しなかつた同組合員に対し強制連行をするなどの暴行を加えたので、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪で起訴され、このため同年一〇月一一日付で国鉄法三〇条一項二号により休職となり、本件所為は右休職中にされたものであり(その後、同罪で罰金一万五〇〇〇円に処せられ、同判決は昭和三八年一〇月頃確定した。)、また、昭和三五年七月二〇日付、昭和三六年三月二二日付及び昭和三九年一一月八日付で、それぞれ同法三一条による戒告処分を、昭和四〇年六月一六日付及び昭和四一年八月一六日付で、それぞれ同条による減給処分を受けている。

原判決は、被上告人の本件所為は、国鉄法三一条一項一号及びそれに基づく国鉄就業規則六六条一七号の懲戒事由に該当するが、本件所為はさほど悪質なものとはいえず、右5の処分歴が存することを考慮しても、本件所為につき免職処分に付するのは相当とはいえないとして、本件免職処分は無効であるとしている。

原判決の右判断のうち、被上告人の本件所為が右の懲戒事由に該当するとした部分は、正当として是認するに足りるが、本件所為につき免職処分に付するのは相当とはいえないとした部分は、到底是認することができない。その理由は、次の二、三において述べるとおりである。

二本件所為は懲戒事由に該当するか。

使用者がその雇傭する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もつて企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰である。従業員は、雇傭されることによつて、企業秩序の維持確保を図るべき義務を負担することになるのは当然のことといわなくてはならない。ところで、企業秩序の維持確保は、通常は、従業員の職場内又は職務遂行に関係のある所為を対象としてこれを規制することにより達成しうるものであるが、必ずしも常に、右の所為のみを対象とするだけで充分であるとすることはできない。すなわち、従業員の職場外でされた職務遂行に関係のない所為であつても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となりうることは明らかであるし、また、企業は社会において活動するものであるから、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれなしとしないのであつて、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるがごとき所為については、職場外でされた職務遂行に関係のないものであつても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もありうるといわなければならない。そして、上告人のように極めて高度の公共性を有する公法上の法人であつて、公共の利益と密接な関係を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業の運営内容のみならず、更に広くその事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされるのであつて、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されているのであるから、このような社会からの評価に即応して、その企業体の一員である上告人の職員の職場外における職務遂行に関係のない所為に対しても、一般私企業の従業員と比較して、より広い、かつ、より厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものと考えられるのである。

ところで、国鉄法三一条一項は、上告人の職員が同項一号、二号に掲げる事由に該当するに至つた場合に、懲戒処分をなしうる旨を定めているところ、同項一号は、懲戒事由として、「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」をあげており、右の業務上の規程とは、上告人がその職員に対し遵守を要するものとして定めた規程を意味するのであつて、結局いかなる事由を懲戒事由とするかを、上告人が企業秩序の維持確保という見地から定めるところに委ねたものと解されるのである。そして、右の業務上の規程に当たる国鉄就業規則六六条は、具体的に懲戒事由を定めているのであるが、同条一七号の「その他著しく不都合な行いのあつたとき」という規定は、同項一六号の「職員としての品位を傷け又は信用を失うべき非行のあつたとき」という規定と対比すると、単に職場内又は職務遂行に関係のある所為のみを対象としているものでないことは、原審の正当に判示するところであり、既に述べたところを考え合わせると、右の「著しく不都合な行いのあつたとき」には、上告人の前述の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認められる職場外の職務遂行に関係のない所為のうちで著しく不都合なものと評価されるがごときものをも包含するものと解することができるのである。そして、右規定は、更に具体的な業務阻害等の結果の発生をも要求しているものとまで解することはできない。

本件につきこれを見るに、原審確定の本件所為は、職場外でされた職務遂行に関係のないものではあるが、公務執行中の警察官に対し暴行を加えたというものであつて、著しく不都合なものと評価しうることは明らかであり、それが上告人の職員の所為として相応しくないもので、上告人の前述の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるものであるから、国鉄法三一条一項一号及びそれに基づく国鉄就業規則六六条一七号所定の事由に該当するものというべく、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができるのである。

三本件免職処分は相当であるか。

国鉄法三一条一項には、上告人の職員が懲戒事由に該当するに至つた場合に、懲戒権者たる上告人の総裁は、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定されている。そして、右の四種の処分には、おのずから軽重の差異があることはいうまでもないが、懲戒事由に当たる所為をした職員に対し、懲戒権者がどの処分を選択すべきかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はなく、また、上告人の業務上の規程にも右具体的基準の定めがないことは、原審の判示するところである。ところで、懲戒権者は、どの処分を選択するかを決定するに当たつては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表われた態様のほか右所為の原因、動機、状況、結果等を考慮すべきことはもちろん、更に、当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情をも斟酌することができるものというべきであり、これら諸事情を綜合考慮したうえで、上告人の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきである。しかして、どの処分を選択するのが相当であるかについての判断は、右のようにかなり広い範囲の事情を綜合したうえでされるものであり、しかも、前述のように、処分選択の具体的基準が定められていないことを考えると、右の判断については懲戒権者の裁量が認められているものと解するのが相当である。もとより、その裁量は、恣意にわたることをえず、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであつてはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度をこえるものとして違法性を有しないかぎり、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとしてその効力を否定することはできないものといわなくてはならない。もつとも、懲戒処分のうち免職処分は、上告人の職員たる地位を失わしめるという他の処分とは異なつた重大な結果を招来するものであるから、免職処分の選択に当たつては、他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要することは明らかであるが、そのことによつても、懲戒権者が免職処分の選択を相当とした判断について、裁量の余地を否定することはできず、結局、それにつき、右のような特別に慎重な配慮を要することを勘案したうえで、裁量の範囲をこえているかどうかを検討してその効力を判断すべきものであつて、右の検討の結果によつても、なお合理性を欠くものと断定できないときは、その効力を是認せざるをえないのである。

本件につきこれを見るに、原審確定の事実に徴すると、本件所為は、公務執行妨害罪にあたる重大な犯罪行為であつて、その具体的な態様も相当に積極性が認められるのみならず、警察官の犯罪捜査のための情報収集という公務執行に対する具体的な侵害を伴つていることが窺われるのであつて、原判決のいうように、右所為を単に偶発的なものであり、その法益侵害の程度はさほど重大ではなく、犯情も特に悪質ではないなどと評価し去ることができるものではない。そして、右所為について、公務執行妨害罪として懲役六月執行猶予二年の有罪判決が確定していることも、右所為の評価に当たり軽視しえず、更に、被上告人には、前記一の5のとおり、本件所為以前に休職処分一回、それ以後に懲戒処分五回の処分歴があつて、右休職処分の対象となつた所為は、原審判示のように組合内部の統制にかかわるなどの事情があるにしても、粗暴な犯罪行為であり、そのような所為によつて起訴され、休職となつていながら、本件所為に及んだという事実は、考慮に値いするものであるし、右懲戒処分歴も、本件所為以後のものであるとはいえ、無視することはできない。右に述べたような諸事情を綜合して考えると、原審の判示する他の事情及び本件免職処分の時期が本件所為の時点から隔たりのあること、上告人の職員で公職選挙法違反の罪により、確定の有罪判決を受けた者があるが、その者が免職処分となつた例はないことなど被上告人の主張事実を斟酌し、更に、免職処分の選択にあたつて特別に慎重な配慮を要することを勘案しても、なお、上告人の総裁が被上告人に対し本件所為につき免職処分を選択した判断が合理性を欠くものと断ずるに足りないものというほかはなく、本件免職処分は裁量の範囲をこえた違法なものとすることはできない。

以上によれば、本件免職処分を無効であるとした原審の判断は、国鉄法三一条一項の解釈適用を誤つた違法なものであり、その違法が原判決に影響を及ぼすものであるといわなくてはならない。したがつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、既に説示したところによれば、本件免職処分は、その効力を是認すべきであるから、本件免職処分が無効であることを前提とする被上告人の本訴請求を棄却した第一審判決は、結局において正当であり、したがつて、本件控訴は、これを棄却すべきものである。

よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

〈上告理由省略〉

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